大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和58年(少)11894号 決定

少年 N・S子(昭四四・七・一〇生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一  非行事実

別紙のとおり。

二  適用法条

一について少年法三条一項三号イ

二について少年法三条一項三号ロ

三  処分の理由

少年に対する少年調査票、大阪少年鑑別所鑑別結果通知書を併せ考えると、少年の健全な育成を期するためにはその性格、これまでの行状、環境等に鑑み、初等少年院に収容して指導訓練を施すのを相当とするので、少年法二四条一項三号により主文のとおり決定する。

(裁判官 孝橋宏)

(非行事実)

少年は、

一 当庁昭和五八年少第八一八九号ぐ犯保護事件につき同年九月三〇日当庁において教護院送致決定を受け、同年一〇月六日に教護院に入所したが、少年を現に監護する教護院職員の正当な監督に服さず、同月二二日に無断外出を試みて以来、無断外出を繰り返し、しかも無断外出の際にしばしば他の寮生の衣類や日用品を勝手に持ち出すなど、教護院の秩序を乱す行為を重ねており、その性格、行動傾向に照らし、将来、窃盗等の罪を犯す虞がある。

二 同年一一月一九日に観護措置決定を受け、同年一二月一六日に当庁における審判の結果、家庭裁判所調査官の試験観察に付されることになつたが、同月二六日以降正当な理由がないのに家庭に寄り附かず、知人や友人を頼つて居所を転々と変えながら放縦な生活を送り、昭和五九年一月一二日に、学校へも行かずに男友達と二人で盛り場を徘徊していたところを補導されるに至つたもので、その性格、行動傾向に照らし、将来、窃盗等の罪を犯す虞がある。

ものである。

少年の家庭環境の調整に関する件

少年 N・S子 昭和四四年七月一〇日生

本籍 大阪府柏原市○○×丁目××番地

住居 大阪市○○区○○×丁目×番××号

上記少年は別添決定謄本のとおり、昭和五九年二月一日当庁において初等少年院送致決定を受け、現在交野女子学院に収容中のものでありますが、少年院における矯正教育に引き続く在宅処遇段階に備え、少年の家庭環境の調整に関し下記のとおりの措置を行われるよう、少年法二四条二項、少年審判規則三九条に則り要請致します。

大阪保護観察所長 殿

昭和五九年二月一日

大阪家庭裁判所

(裁判官 孝橋宏)

第一行われるべき環境調整の措置

少年の父母に対し、少年が少年院の仮退院を許可される場合に備え、家庭における少年の監護態勢を整えるよう指導すること。とりわけ、少年の母親に対し、少年に対する拒否的態度を改め、少年院在院中の少年との接触に努めるよう指導すること。

第二上記措置を必要とする理由

少年には、小学校在学中から家出、怠学、盗み等の問題行動があつたため、児童相談所の指導を経て昭和五六年四月から昭和五七年三月までの約一年間を養護施設で過ごした。そして、同月養護施設を出て親許に引き取られ、同年四月に中学校へ進学したが、昭和五八年春ころから家出、怠学を重ねるようになり、同年七月ごろ年上の男友達と親しくなつてからはほとんど家庭に寄り附かなくなつた。このため、警察署長からのぐ犯通告に基づき、同年八月二二日に観護措置決定を受け、同年九月一六日の第一回審判期日において一旦帰宅を許されたものの、依然家庭に寄り附かず、学校にも登校しない状態が続いたため、同月三〇日に教護院送致決定を受けた。ところが、同年一〇月六日に教護院大阪府立修徳学院に入所した後に無断外出や他の寮生の所持品の持ち出しを繰り返したため、大阪市中央児童相談所長からの事件送致に基づき、同年一一月一九日再度観護措置決定を受けた。同年一二月一四日の審判では父親の少年を引き取りたい旨の希望や少年の反省状況等の事情を酌んで、在宅試験観察決定となつたが、少年は、少年鑑別所出所後もやはり家庭に寄り附かず、二学期の終業式までは近所に住む中学校のPTAの会長の厚意により、同氏方に寄宿して中学校へ通学したものの、冬休みに入つてからは友人方を頼つて居所を点々と変える生活を送り、昭和五九年一月一二日に警察官に補導されるに及び、観護措置を経て同年二月一日に初等少年院送致決定を受けた。

少年は、昭和四四年七月に父母の次女として出生したが、母親が昭和五〇年二月に出生した少年の弟を偏愛し、また少年も母親に対して反抗したり嘘をついたりしたことが多かつたため、少年の幼年時代から、少年と母親との折合は良くなかつた。ことに最近では少年と母親との間の感情的な対立が深刻化し、母親は少年との同居を拒否する態度を示すまでに至つている。

(母親は、これまでに少年鑑別所入所中の少年との面会に赴いたことはなく、また家庭裁判所の調査に対しても協力的でないなど些か態度に常識を欠く点があり、人格的に未成熟な面のあることが窺われる。)一方、父親は、勤務の都合等の事情もあつて、これまで少年と母親との関係の調整や少年の監護のために十分な努力を払つて来なかつた。少年は、このような家庭環境の下で家庭で精神的な安定を得ることができず、家出を繰り返し、自分を受け容れてくれる友達を頼つて放縦な生活を続けてきた。

そこで、少年の健全な育成を図るためには、当面、少年院での矯正教育により少年の性格面の問題点を改善するための指導を行うとともに、保護観察所において少年の父母に対して家庭における少年の監護態勢を整える指導、ことに母親に対して少年院在院中の少年との面会や通信等による接触に関する指導を行うことにより、母子関係の改善を図り、以て少年院での処遇に引き続く在宅処遇段階に備えることが望ましいと考えられるものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例